2022年8月18日
皆さま、こんにちは!
コロナウイルス感染第7波到来、皆さま、体調はいかがでしょうか。のどが痛い、だるいと少しでも思ったら感染を疑い、自宅療養しましょう!
さて、今月の労務トピックは、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」について説明します。
2018年1月に策定、2022年7月改定されたばかりの「副業・兼業の促進に関するガイドライン」により、国は、「働き方改革」の一つの施策として、副業・兼業を普及促進しています。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」とは、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由」であることを大前提とし、厚生労働省が「副業・兼業について、現行法のもとで、どのような事項に留意すべきか」を取りまとめたものです。
[1] 基本的な考え方
これまでの裁判例を踏まえると、原則として副業を容認する方向とすることが適当であることから、就業規則に、以下の定めをしておくことが必要と考えられます。
・原則として、労働者は副業・兼業を行うことができる
・例外的に、以下のいずれかに該当する場合には、副業・兼業を禁止または制限することができる
①労務提供上の支障がある場合
②業務上の秘密が漏洩する場合
③自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により自社の利益が害される場合
また、労働者が副業を行う際に、企業が副業に伴う労務管理を適切に行うためには、労働者が副業を行うことおよびその内容を、企業が把握する必要があるため、「就業規則、労働契約等に副業・兼業に関する届出制」などを定めて、副業の有無・内容を確認する仕組みを設けておくことが望ましいです。
副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできません。例えば、労働者が副業の申請を行ったタイミングで労働者の残業を増やした場合などには、副業の申請による不利益取り扱いと推認され得るため、企業としては注意が必要です。
[2] 労働時間管理
労働基準法38条1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。そのため、労働者が使用者Aと使用者Bで労働した場合、それぞれでの労働時間を通算して、労基法上の義務(36協定の締結・届出義務、割増賃金の支払い義務)を負うかを検討する必要があります。
※具体例は、使用者A・使用者Bともに労基法が適用される労働契約の場合です。使用者Bが労基法の適用されないフリーランス等、労働時間法制が適用されない管理監督者等の場合は該当しません。
1日単位の通算の具体例
- まず労働契約の締結の先後の順(Aが先契約者)に所定労働時間を通算
- 次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算
例2、例3の場合、使用者Bに時間外労働割増賃金が発生
[3] 健康管理
健康確保措置について、法律上労働時間の通算が要求されていません。労働者が副業を行う場合の健康管理は、原則として労働者の自己管理にて行われるべきと考えられますが、企業としては、民事リスク回避の観点から対応を取っておくべきと言えます。
つまり、企業が、労働者に(副業が原因かは分からないものの)疲れがたまっている状態であることを認識しているにもかかわらず何の措置も取らなかった場合、結果的に労働者が健康を害したとすると、企業は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われ得る可能性があります。労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施されておくとよいでしょう。
[4] 労災保険
労働時間の考え方について、「複数業務要因災害における精神障害の認定について」では、「心理的負荷を評価する際、異なる事業場における労働時間、労働日数は、それぞれ通算する」とされています。そのため、長時間労働に関する心理的負荷の評価に関し、副業を行っている労働者に労災認定がされる可能性は高くなると言えます。
企業としては、このような現状を踏まえ、民事リスクを減らしておくため、副業を行う労働者にかかる身体的・心理的負荷が自社によるもののみでないことを理解し、他の使用者との間で、労働状況の情報交換を行い、健康確保に資する措置を実施しておくことが重要です。
[5] 雇用保険
法令上は、複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となること、となっています。
なお、令和2年3月31日の雇用保険法の改正(令和4年1月1日施行)により、65歳以上の労働者については、本人の申し出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されています。
以上、副業・兼業において企業が実務上留意すべき点について述べました。企業としては、労務管理上の懸念点もありますが、副業・兼業を、専門的なスキルや知識、経験を持つ人材を獲得し(または手放さず)新たな技術の開発や業務の高度化を推し進めるチャンスであると積極的に捉え、自社に適する制度策定にチャレンジ頂ければと思います。
新しい就業規則の在り方に関し、是非ともチェスナットにご相談ください。
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