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第95回:税務調査について

2020年1月21日

今回の税務トピックは、「法人に対する税務調査」について、お話しさせていただきます。

 

『税務調査』とお聞きになると、皆様どの様に感じられますか?

おそらくどなたでも、何も悪いことはしていないのに気が滅入ってしまうのではないかと思います。

筆者は、昨年まで国税の職場で勤務し、東京国税局において査察調査を11年、税務署において法人に対する実地調査を3年、特別調査支援を2年、繁華街調査を1年経験いたしました。

そこで、本日は、法人に対する税務調査について、私の経験に基づき、

1.税務調査の種類及びその方法

2.税務調査先の選定

3.調査のポイント

について、簡単ではありますが、税務調査の概略をお知りいただき、今後のお取引や経理処理のご参考にしていただければと思います。

 

1 税務調査の種類及びその方法について

(イ)実地調査(一般調査)

これは、税務署が行う税務調査の一般的なものであり、法人代表者又は関与税理士に対し、予め調査日を通知し日程を決めた上で、本社事務所等に臨場し、帳簿、請求書及び領収証等を検査するものであり、2日から3日程度行われるものとなります。

また、資本金1億円以上の法人に対しては、国税局調査部が定期的に調査を行います。

(ロ)無通知調査

これは、上記(イ)のように、予め通知をせず、抜き打ちで行われる調査であり、本社事務所、支店及び営業店舗、時には代表者の自宅に臨場し、現金監査、金庫内、代表者及び経理担当者の机周りの書類やパソコンのデータ等、ありのままの状況を任意で検査するものです。

税務署では特別調査部門「特調(とくちょう)」、国税局では資料調査課「料調(りょうちょう)」が主となり、1週間程度現場で行われます。

また、東京国税局管内においては、8つの税務署に繁華街担当部門「繁華(はんか)」が設置されており、主にクラブ、キャバクラ、バー、居酒屋及び風俗店などの現金決済業種に対し無通知により調査を行います。

(ハ)強制調査

これは国税局査察部、いわゆるマルサが、裁判官の発行する臨検捜索差押許可状に基づき、関係各所を強制的に捜索し、関係証拠を差し押さえ、その証拠に基づき、嫌疑者及び関係者に対し取り調べを行うものです。

査察部での調査が終了すると検察庁に告発し、検察庁が告発内容に基づき捜査を行い、起訴して裁判となります。不正内容があまりにも悪質ですと、執行猶予が付かない場合もあります。

国税局が検察庁に告発するまでの調査期間については、一般的に半年から1年、中には2年以上の長期に渡る場合もあります。

(二)その他

消費税、源泉所得税及び印紙税を重点的に検査する調査などがあります。

 

2 税務調査先の選定について

どの様な法人が税務調査を行う対象となるか、私見ですが一般調査における選定方法についてお話しいたします。

まず、前提としまして、売上が急増し且つ黒字の法人は選ばれやすく、赤字の法人については、特段の理由がない限り選ばれないという傾向にあります。

また、設立後3期程度経過し、所得金額が順調に伸びている法人も選ばれやすいと言えます。

では、税務職員が調査先の選定を行う際のポイントをいくつかご紹介いたします。

(イ) 過去の調査において不正が認められた法人

やはり、過去に不正が認められた法人については、その後、適正に申告されているかについて確認するためにも、選定されることが多いかと思います。

(ロ) 損益計算書(P/L)からの検討

A売上に対する原価率がアンバランスである

  1. 前期、前々期に比べ高くなっている
  2. 毎期一定の比率を保っていない

B外注費が多額である

C金額が突出している費用科目が存在している

D雑損失に多額の計上が存在している

E関係会社に対する支出が多額である

(ハ)貸借対照表(B/S)及び勘定科目内訳書からの検討

A買掛金又は未払費用が多額である

  1. 売掛金及び未収金と比べ比率が高い
  2. 2期以上滞留している
  3. 取引先の申告事績が存在しない

B代表者からの借入金が増加又は代表者に対する貸付金が減少

代表者に対する役員報酬の額を参考に、代表者が貸付又は借入返済が可能であるか

C棚卸(未成工事支出金)の検討(業種による)

  1. 買掛金及びP/Lの売上高との比較
  2. 前年、前々年との比較

以上のような検討を行い、総合勘案して調査先を選定します。

 

3 調査のポイントについて

では、次に税務調査の際、税務職員が何を、どの様に検討するのかについて簡単に説明したいと思います。

税務職員が調査先に臨場し最初に行うことは、代表者に対するヒアリングです。

このヒアリングでは、会社のこれまでの成り立ちや、今後の展望等を聞き、その時の社会情勢など雑談も交えて、なるべく多く代表者との会話を行い、代表者の人柄を知ることから始めます。

代表者の人柄を知るということは、非常に重要なポイントであると言えます。

それはなぜかと申しますと、税務職員は帳簿等を検査するだけでなく、人、物、金の動きを重視して調査を行うからです。

ひと通り、代表者に対するヒアリングが終わると、帳簿や原始記録(通帳、請求書及び領収証等の証票類)の検討に入ります。

調査先の業種により調査のポイントは異なりますが、次のような検討を行います。

(イ)売上の検討

  1. 請求書及び領収証控えと売上計上金額とのチェック
  2. 領収証控えの綴りから、枚数はすべてあるか、破棄されていないか。※市販されている領収証綴り(例えば50枚1束で控えが複写されるもの)
  3. 継続取引において、歯抜けとなっている月はないか
  4. 売上原価を基に、仕入れた商品及び外注による役務提供に紐付く売上が計上されているか。※棚卸(未成工事支出金)に計上されていれば問題はありません
  5. 売上集計表など、法人独自で作成している帳票及びデータに改ざんされている形跡はないか

(ロ)売上原価の検討

  1. 1つの売上に対し、同内容の役務提供を受けている外注先が2か所以上存在しないか
  2. 原価割れしている取引について、その要因に不審な点はないか
  3. 期末において買掛金又は未払費用として計上されている金額は、翌期、決済されているか
  4. 決算間際に計上のある仕入及び外注費に対応する売上又は棚卸(未成工事支出金)の計上はあるか
  5. 請求書の内訳が一式となっているものについて具体的な説明はできるか
  6. スポット(単発)取引が存在する場合、その取引はなぜ行われたか
  7. 現金決済による取引はないか
  8. 丸い数字(例えば1,000万円ジャスト)で計上されている仕入及び外注費に不審な点はないか

 

(ハ)棚卸(未成工事支出金)の検討

  1. 期末に実地棚卸は行われているか※税務職員が実際に調査日現在の在庫の状況を確認し、直前の棚卸数量から受払をする場合があります
  2. 決算月間際に仕入れた商品に対応する棚卸は計上されているか(※売上に計上されていれば問題はありません)
  3. 動きのない商品は実際に在庫として残っているか
  4. 未成工事支出金に関しては、いくつかの工事を抽出し、工事着手から完工までを時系列で整理して検討

(二)期ズレ(売上の繰り延べ及び経費の前倒し)の検討

主に直近期における、決算期末及びその翌月について、請求書、納品書(検収票)及び決済日のほか、関連する費用(荷造運賃など)を紐付け、実際の資産譲渡の日及び役務提供が行われた日を検討

(ホ) 個人的経費の付け込み

経費科目に係る請求書及び領収証の記載内容から、代表者及び従業員の個人的な目的で支出されたものが存在しないか丹念に検証

 

以上、いかがだったでしょうか。

こちらに書かせていただいた内容については、税務調査のすべてを網羅している訳ではなく、税務職員にも個性があり、調査経験により、着眼点や調査方法は異なります。

あくまでも参考として、少しでもお役に立てたなら幸いです。

もし、取引形態や経理処理にご不安な点がありましたら、チェスナットまでご相談下さい。