2026年1月22日
インボイスの取り下げ手続きに関するご相談事例をご紹介します。
■ご相談内容
2023年10月の制度開始から2年が過ぎ、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を「やめたい(取り下げたい)」というご相談が増えています。ただし、ここで非常に多い誤解が1つあります。それは、「インボイス登録をやめる=消費税の納税義務がなくなる(免税に戻る)」ではないということです。
■チェスナットでの対応
あくまで「インボイスの登録(適格請求書発行事業者であること)」と、「消費税の納税義務(課税か免税か)」は別の制度です。まずここを分けて理解しないと、手続きのミスや資金繰りの計画に狂いが生じる可能性がございます。そのためご相談があった際は、登録の取り消しの手続きと下記パターンの分岐等を確認し、メリットデメリットを説明したうえで必要に応じて手続きを開始いたします。今回はその注意点等についてご説明いたします
※本記事は2026年1月時点の法令・通達に基づいています。
1.インボイスを取り下げるときに出す書類
事業を継続したまま「インボイス登録だけをやめる」場合、原則として提出する書類は次の1枚です。
• 提出書類:「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下、「届出書」
• 提出先・方法:
e-Tax(推奨):画面上で作成から送信まで可能です。
郵送:各局の「インボイス登録センター」宛に送付します。
※提出先は税務署宛ではなく、インボイス登録センター宛てになりますのでご注意ください。(URL:各局(所)インボイス登録センターのご案内|国税庁)
2.提出時の注意点
インボイス登録の取り下げで最も重要なのが、提出期限です。このタイミングを間違えると、登録の効力を失う時期が1年遅れてしまう可能性があるため注意しましょう。
• 提出期限:登録の効力を失わせたい課税期間の初日から起算して15日前
• 注意点①:提出期限を過ぎて提出すると、登録の効力喪失は1課税期間遅れとなります(個人は通常1年、法人は事業年度分遅れ)。
• 注意点②:提出期限は、該当日が土日祝であっても翌日にはなりません。
3.具体例:3月決算法人の「15日前」っていつ?
国税庁の記載要領にある例を見てみましょう。
【例】3月決算法人が、×年4月1日(新年度)からインボイスをやめたい場合
• ×年3月17日までに提出できれば、×年4月1日から失効(○成功)
• ×年3月18日〜3月31日に提出すると、×+1年4月1日から失効(×失敗:1年遅れ)
<覚え方のコツ>「失効させたい課税期間の初日の前日(上記なら3月31日)を含めて、カレンダーを15日分さかのぼる」と確実です。決算月が近い場合は、早めの行動が鉄則です。
4.状況別の分岐について
インボイスをやめる際、ご自身の状況によって手続きや結果が分岐しますので各パターンに応じた対応が必要となります。
分岐①:事業は続けますか?
• はい(継続)→【パターンA】へ
• いいえ(廃業・清算・死亡・合併消滅など)→【パターンB】へ
【パターンA】事業は継続する(任意にインボイスだけやめたい)
A-1:とにかくインボイス登録だけやめたい(課税事業者のままでもOK)
• 手続:届出書を期限までに提出。
• 注意点:登録が失効した後は、適格請求書(インボイス)を交付できません。取引先は仕入税額控除ができなくなる場合があるため、事前の周知や値下げ等への対策が必要です。
※一部仕入税額相当額の一定割合(80%/50%)を控除できる経過措置あり
※このケースは「消費税の納税義務があるかどうか」とは別問題です。課税事業者に該当する限り、申告納付は継続します。
A-2:インボイスをやめて「免税事業者」に戻りたい
ここが一番危険なゾーンです。「免税に戻れるか」は、なぜ現在課税事業者なのかという理由で決まります。下記さらに分岐するため状況に併せてご確認ください。
• A-2a:過去に「課税事業者選択届出書」を出して課税になっている場合
免税に戻すには、インボイスの取り消しとは別に「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出が必要です。こちらは、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければなりません。
• A-2b:売上規模等により課税事業者となっている場合(基準期間における課税売上高1,000万円超など)
インボイスをやめても免税には戻れません。あくまで「インボイスを出せない課税事業者」になります。取引先へのデメリットだけが発生する状態になるため、慎重な判断が必要です。
• A-2c:免税事業者だったが「免税事業者に係る適格請求書発行事業者の登録申請に関する経過措置」で登録した場合
登録を取りやめても、原則として「登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間」までは免税事業者に戻れません(いわゆる2年縛り)。一定期間は課税事業者として消費税の申告納付が必要になります。
【パターンB】事業をやめる(死亡・廃業・清算結了・合併消滅)
国税庁のパンフレットでは、以下のケースでは「登録取消届出書」の提出は不要(みなし廃止)と整理されています。
• 個人事業者:死亡、事業廃止
• 法人:清算結了、合併消滅
この場合は、インボイス取消ではなく、各場面に応じた「事業廃止届出書」や異動届出の手続きを進めてください。※個人事業主が死亡し、相続人が事業を引き継ぐ場合は、別途相続人による新規登録手続き等が必要になりますのでご注意ください。
■最後に
手続き自体はシンプルですが、判断を誤ると「納税義務」や「取引先との関係」に大きな影響が出ます。不安な場合は、届出書を出す前に必ず税理士にご相談ください。
※本記事は一般的なケースにおける手続きを解説したものです。個別の課税状況(簡易課税の選択有無や基準期間の売上高など)によって判断が異なる場合があります。最終的な判断は、所轄の税務署または税理士にご相談ください。